2025年2月13日木曜日

Straight Skeleton キット

 Straight Skeleton キットを公開いたしました。Straight Skeletonは、2Dポリゴンの中心線カーブを求めるアルゴリズムで、等高線の作成や3次元地形モデル、建築物の屋根のモデリングなどで利用されています。外郭を構成する線分を等速で移動させ、それらが衝突などで発生したイベントごとにトポロジーを更新していくアルゴリズムです。

前回、CDT三角形分割で利用したCGALにStraight Skeletonライブラリがありましたので、これを利用してModoのプラグインを作ってみました。CGALのStraight Skeletonライブラリは機能が豊富でしたのでこのプラグインでは、実験的に複数のモードを用意し、異なる結果が得られるようにしてみました。もっと便利な使い方はこれから研究してみたいと思います。

Skeletonモード

これはポリゴンの背骨となる中心線(Straight Skeleton)を求め、ポリゴンの外郭を構成する頂点とで作られる複数の平面にポリゴンを分割します。



アップロード中: 127810 / 127810 バイトをアップロードしました。



Extrudeモード

これはポリゴンの輪郭線をStraight-Skeletonの押し出し機能を利用して立体的な押し出し形状を生成します。押し出しはゴールとなる中心線の高さとなり、Maximum Heightを指定することで中間の高さまで押し出しを制限することができます。中心線の高さは固定されていますので、Scaleを使って高さを調整できるようにしました。


Duplicateモード

Duplicateはポリゴンの輪郭線をStraight-Skeletonの中心線の内側もしくは外側に向かってオフセットしたポリゴンを作成する機能です。オフセットした形状は複数のループに分割されたり、交差部分が融合する場合があります。段階的にオフセットしたポリゴンが一度に得られるように、ShiftオプションとStepsオプションを追加しています。


Offsetモード

OffsetはDuplicateと同じ方法でもとのポリゴンのオフセットループを求めていますが、新しくポリゴンを作る代わりに、元のポリゴンの各頂点の座標値を最も近い位置にあるオフセットループの頂点座標値に移動しています。これによりコーナー部分に交差のないインセットを行うことができます。Mergeオプションをオンにしておけば、同一点に収束された頂点はマージされます。この方法は元の頂点とオフセットループの頂点の距離を使ってインセットを行っていますので、オフセットループのトポロジーが極端に変更された場合などでは、インセットされたループは破綻する場合があるので注意が必要です。



2025年2月4日火曜日

Part Falloff

 FoundryでModoの開発をしていたChris Hagueが自身のGithubでPart Falloffというサブツールを公開しています。ChrisはLuxologyからFoundryへ来たデベロッパーの一人でModoのアーキテクチャに関するスペシャリストです。Modo17.0のマルチスレッドを使った新しいModoのアーキテクチャをデザインしたのもChrisで、Modoの内部構造に関しては一番詳しいのではないかと思います。

Part Falloffは、リニアフォールオフに似たフォールオフサブツールです。リニアフォールオフがフォールオフ影響範囲にある頂点の座標値に対してウェイトを頂点ごとに線形に設定するのに対して、Part Falloffは、連結されたポリゴンのグループの中心を評価し、グループ単位にフォールオフウェイトが設定されます。いままでありそうでなかったフォールオフサブツールで便利そうですね。



Modoにはツールパイプラインというアーキテクチャがあり、フォールオフ、アクションセンター、アクションアクシスなどが独立したツールとして実装されていて、他のメインツールと組み合わせて使用することができます。プラグインであとからPart Falloffなどのサブツールが追加されると組み合わせでどんどん面白そうなコンビネーションツールが増えていきます。

ChrisのGithubには、Part Falloffのリポジトリにはソースコードのみが公開されています。このツールを使用するには、ターゲットとするOS向けに自分でソースコードをビルドするか、DiscordのPixel Fondueのサーバーの#modo-contentからPartFalloff.lpkをダウンロードする方法があります。


2025年1月24日金曜日

MODOトレーニングブック

 ディストームさんのオンラインストアで澤田 覚志さん著のMODOトレーニングブックが発売されています。MODOの機能を紹介するチュートリアルビデオはいくつもありますが、日本語の書籍は貴重です。かなりの大作ですよ。

内容はMODOの基本操作から始まり、マイクや小物のモデリング、キャラクターモデリングをいろいろなモデリングチップスを交えながら解説されています。澤田さんは、YAMATOWORKSさんのプロジェクトを中心に数多くの作品に3Dモデリングディレクター、CGIディレクターとして参加されているバリバリ第一線のクリエータさんなので、このトレーニングブックで解説されているチップスは単にMODOの操作手順でなく、他のDCCツールでも使えるプロフェッショナルのテクニックだと思います。

後半は前半で作ったキャラクターをもとにライティング、レンダリング、アニメーションが丁寧に解説されています。レンダーパスやコンポジットの解説は、アニメの制作過程のチップスが盛り込まれているので読みごたえがありました。

また、付録にはMODOのモデリングの基本アーキテクチャとなっているアクションセンター、フォールオフ、スナッピングなどが解説されています。これらはMODOのモデリングワークフローを理解するうえで重要な考え方なので、これらをちゃんと理解するとグッとモデリング作業が快適になります。トラブルシューティングのチップスも貴重ですね。

MODOをこれから使ってみたいと思われている方の入門書として、アニメ制作のプロフェッショナルのチップスを勉強するための学習書として貴重な一冊になっていると思います。



2025年1月21日火曜日

CDT Triangulation キット v2.0

 CDT Triangulation キットを大幅に更新いたしました。最初のバージョンをリリースした際に、Conforming Delaunay TriangulationでFEMなどで使用するような最適化された三角形を生成するようにできないかとのリクエストがあり、これに対応するため最初のバージョンで使用していたCDTライブラリをCGALに変更いたしました。CGAL(Computational Geometry Algorithms Library)は、幾何計算分野における歴史のあるライブラリで多くの優秀な幾何計算アルゴリズを利用することができます。オープンソースで利用する場合は、GPL、LGPLライセンスに基づいて利用することができます。ModoはCGALの商用ライセンスは取得していなかったので、今回初めて個人のオープンソースプロジェクトで利用させていただきました。

Constraint Delaunay Triangulationに関しては、最初のバージョンと処理結果は変わりません。元のポリゴンのエッジを拘束条件として、元の頂点のみを使用して三角形分割の処理を行います。

Conforming Delaunay Triangulationのために新たに追加したのは、三角形の最長エッジサイズ(Minimum Edge Size)と最小角度(Maximum Angle)です。最長エッジサイズは、分割した三角形のエッジのサイズを規制するもので、このサイズが短いほど細かな三角形が生成されます。CGALのライブラリでは絶対的な長さを設定するのですが、このキットでは元のポリゴンのサイズに対する相対的なサイズでも指定することができるようにしています。これにより元のポリゴンの大きさが変わっても同じ分割を維持することができます。最小角度は、生成する三角形のコーナーの角度を指定するものです。理想的な角度は正三角形の60°ですが、ここではデフォルトを20.7°としています。いろいろ試してみたのですがこの値を大きくし過ぎるとハングしてしまうことがあったため、上限を30°にしています。三角形の密度は最長エッジサイズを主としてコントロールしたほうが良さそうです。



その他、v2.0では分割した新しい三角形とそのエッジと頂点をSelect By Previous Operationで利用できるように変更いたしました。

CGALには、他にも素晴らしいアルゴリズムが数多く公開されています。このライブラリを使って、もっといろいろなプロジェクトにチャレンジしてみたいと思います。

2025年1月15日水曜日

Modoのサブディビジョンサーフェイスについて

OpenSubdivキットをバージョンアップし、UVマップ以外のRGBマップなどの不連続頂点マップとモーフポジションの補間を行うようにしました。またメッシュモディファイアは、再分割したメッシュエレメントをエレメントグループに設定するように変更し、Select By Previous Operationから選択できるようにいたしました。

Modoでは、このOpenSubdivキットとは別にOpenSubdivをサポートしていたり、ネイティブのサブディビジョンサーフェイスもオリジナルのサブディビジョンサーフェイスとCatmull-Clarkサブディビジョンサーフェイスの2つがあるので、今回はModoサブディビジョンサーフェイスの取り扱いについて解説したいと思います。


ポリゴンタイプとしてのサブディビジョンサーフェイス

このOpenSubdivキットのメッシュモディファイアのように、多くのDCCアプリケーションではサブディジョンサーフェイスをモディファイアとして実装されていることが多いです。ModoのサブディビジョンサーフェイスはFACEポリゴンなどと同列のポリゴンタイプとして実装されています。これにより同一メッシュ内で異なるタイプのポリゴンタイプをミックスして扱うことができる自由度があります。選択したFACEポリゴンをTABキーを押すことによって同一メッシュの部分的なポリゴンをサブディビジョンサーフェイスとして扱うことができます。ポリゴンタイプはModoのコアレベルで実装されています。


オリジナルのサブディビジョンサーフェイスとCatmull-Clarkサブディビジョンサーフェイス

Modoのオリジナルのサブディビジョンサーフェスポリゴンタイプ(以下SUBD)は、Stuart Fergusonによって実装されたもので、Catmull-Clarkのアルゴリズムとパラメトリック曲面を組み合わせたハイブリッドなオリジナルのアルゴリズムを使用しています。特徴はとにかく軽量でメモリー消費も少ない優れた曲面です。負のエッジウェイトを扱える点もユニークです。欠点はウェイトを使用した場合、UVに歪みが生じてしまうのと、ほかのDCCアプリケーションでも標準となっていたピクサーのCatmull-Clarkサブディビジョンサーフェイスとの互換性が取れなかったことにあります。その後、もう一つのサブディビジョンサーフェイスのポリゴンタイプとして、ピクサーのCatmull-Clarkサブディビジョンサーフェイス(以下PSUB)を実装しました。実装当時はOpenSubdivはまだリリースされていなかったので、Subdivision Surface in Animation に基づいて一から実装いたしました。打ち合わせのためピクサーアニメーションスタジオに訪問したことを覚えています。


オリジナルのサブディビジョンサーフェイス(左からウェイト0%、100%、−100%)


OpenSubdivアイテムプラグイン

その後、OpenSubdivがリリースされましたので、ModoもOpenSubdivに対応してほしいとの要望があったのですが、PSUBはマルチレゾリューションスカルプティングなどにも対応していたため、PSUBの実装をOpenSubdivと置き換えることはできませんでした。また、Modoのコアモジュールに直接サードパーティのライブラリをリンクすることができないという制約も足かせになりました。そこで考えたのがサブディジョンサーフェイスの頂点位置データを外部プラグイン経由でOpenSubdivに計算させる方法です。OpenSubdivアイテムプラグインはModoのFACEポリゴンを読み込んで補間計算を行い、計算結果をPSUBの頂点位置情報に戻しています。ちょっとトリッキーですが、OpenSubdivを補間計算を行う計算エンジンとして使用しています。ただ、あくまでもPSUBポリゴンタイプの拡張機能として作られたプラグインですので、OpenSubdivがサポートしている様々なオプションはほとんど利用されていません。



OpenSubdivキット

今回のOpenSubdivキットは、ポリゴンタイプとは異なるアプローチでOpenSubdivの機能をModoで使用することを目的で開発しました。PSUBポリゴンタイプとは関係なくメッシュモディファイアとして実装しているのでCatmull-Clark以外のスキームやOpenSubdivが提供するUV補間方法のオプションなどもそのまま使うことができます。他のDCCアプリケーションと同様の方法ですね。Modoでは複数の方法でサブディビジョンサーフェイスが利用できるようになっていますのでワークフローに応じて使い分けていただけると良いかと思います。

2025年1月9日木曜日

OpenSubdiv キット

 ピクサーが公開しているオープンソースであるOpenSubdivを使用したModoのポリゴン分割のコマンドとメッシュモディファイアのプラグインをgithubにリリースいたしました。今回はLinux版のバイナリーもキットの中に入っています。macOS版はユニバーサルバイナリですので、IntelとARMの両方で動作します。

このプラグインではOpenSubdivが提供するサブディビジョンスキームとオプションをそのままModoのポリゴン再分割に利用することを目的としています。Catmull-Clarkの他、三角形ポリゴンを分割するためのLoopスキームも対応しています。

Modoには標準のポリゴン分割コマンドやモディファイアが初期のバージョンから実装されていますが、互換性や独自機能の保持のため、OpenSubdivの分割方法と若干ことなる結果となる場合があります。また、このプラグインではサーフェイスポリゴンのみを再分割するため、カーブやポリラインは分割できません。Modoのサブディビジョンサーフェスに関しては、また別の記事で解説したいと思います。

下記はLoopスキームを使って再分割を行った例です。Loopは三角形を再分割するスキームですので、四角形以上のポリゴンは一度三角形に分割してからOpenSubdivの機能を使って分割しています。三角形分割は標準のGenerateTriangleメソッドを使って行っていますので、ソースケージの三角形の形をコントロールしたい場合は、事前に三角形分割してからこのプラグインを使用することをお勧めいたします。Bilinearは、標準のポリゴン分割コマンドのFacetedと同じです。


OpenSubdivでは、UVなどのポリゴンコーナに属するデータをFace-varyとして補間する機能があります。このキットのv1.0では、Modoの頂点マップに保存されているUVデータのみを補間しています。将来的なバージョンでは、UV以外の頂点カラーなどの頂点マップなどの補間やGPUを使用した高速化などを計画しています。


2024年12月25日水曜日

CDT Triangulation キット v1.1

 CDT Triangulation キットv1.1に更新いたしました。主な変更はバグフィックスですが、テスト的にQuad Ruleというオプションもつけてみました。CDTのアルゴリズムは、穴の空いた複数のループを考慮して高い品質の三角形が生成できますが、入力するループに捩れによる交差などがあるとエラーが起こってしまいます。このキットリリース後にDiscordなどでクラッシュバグの報告があったため調べたところ下記のように捩れて線分同士が交差するポリゴンだとクラッシュしてしまうことが判明しました。

対応策として、入力ポリゴンのループが自己交差している場合には、CDTは使用せずにModo標準の三角形分割アルゴリズムを使用することでクラッシュを回避するように変更いたしました。Modo標準の三角形分割は、ILxPolygonクラスのGenerateTrianglesメソッドで提供されていますが、今回はlxu_geometry_triangulation.hppにあるlx::TriangulateFaceを使用しています。こちらの方が標準のポリゴン三角形分割に近い実装です(いつの間に誰が公開しちゃったんでしょう。気が付かなかったです)。GenerateTrianglesは、いわゆるEarClippingアルゴリズムで高速ですが品質はあまり良くありません。

また、ポリゴンが凸包の四角形の場合は、単純に対角線上にポリゴンを分割すれば良いので高速化のために別に処理をするように変更しました。せっかくなので分割する対角線の方向を指定するオプションも追加しておきました。ただし、これは分割する全てのポリゴンに対して適用されるため、まだあまり実用的ではないかもしれません。左右対称に分割されるような処理などが必要そうです。これは今後の課題にしたいと思います。このキットに関してなにかバグや要望がございましたらGithubのIssuesに投稿をお願いいたします。

今回のポリゴンのコーナーが捩れて交差してしまうのは、ポリゴンベベルなどでポリゴンのループをインセットした時、このような捩れができてしまうのがそもそもの原因です。これはまた、別の機会に捩れのないポリゴンインセットができるようなプラグインの開発に挑戦してみたいと思います。